APHEX TWIN / COME TO DADDY

犬の散歩中の老婦人。廃屋の中から何やら人の気配がするが、その正体は分からない。突然それまでおとなしかった犬が、廃棄されたTVに向かって猛然と吠え始めた。そして壊れているはずのTV画面にノイズまじりに歪んだ男の顔が映し出され、建物から異様な顔をした子供の集団が現れ…。


本来、音楽と映像にはそれぞれ違う性質があり、その組み合わせの妙こそがPVの面白さであるといえます。しかしこのPVにおけるエイフェックス・ツインクリス・カニンガムの2人は実は同一人物ではないか?(あるいは双児?)と疑いたくなる程、音楽と映像はまったく同じ感覚で作られていました。その感覚とは「恐怖」に他なりません。


かつてホラー映画において「恐怖」とはあからさまに表現するのではなく、「見えそうで見えない」事を美学とする風潮がありました(ヒッチコックのサスペンスのように)。それに対して真っ向から否定したのが80年代のスプラッター映画であり、また音楽においてはヘビィメタルだったといえます。これらはより直接的な表現方法を、しかも必要以上に過剰に行う事で、視聴者の感覚を麻痺させる効果を与えていました。しかし当時は新鮮だったこれらの手法は、90年代後半においては様式美という枠組みの中に収まってしまい、そのような刺激に対して人々は物足りなさを感じていました。


そんな中登場したのがこのPVでした。5分間という短い時間の中で、ドラムンベースをさらに破壊したようなサウンドをベースに、悪意とも取れる「恐怖」のイメージを詰め込めるだけ詰め込んで、さらに凝縮したようなこのPVは物凄い衝撃で見る者を襲いました。行き詰まったかのような音楽とホラー映画における新たな希望として、このPVを捉える事は果たして誇張のし過ぎでしょうか?まずはフルボリュームで見て聴いて判断してみて下さい。


監督:CHRIS CUNNINGHAM監督ファイル001
音楽:APHEX TWIN
タイトル:COME TO DADDY
DVD:「CHRIS CUNNINGHAM BEST SELECTION」(amazon.co.jp)に収録 (DVDファイル011)|「WARP VISION THE VIDEOS 1989-2004」に収録(DVDファイル019
視聴サイト:sputnik7.com
関連サイト:Director File